シコルスキーの情報は、同社が報道機関用として、一方的に発表したものに由来しています。
FOIAの開示の懸念の他にも、理由がいろいろあったらしいです。
沿岸警備隊の担当官の話では、FOIAを理由にしたのは一種の「煙幕」で、実際には企業内部の事情から割り出して、この取引きから身を引いたのだ、と観測されているといいます。
以上の2つの話は、これを追跡調査した学者のレポートによるといいますが、ある教授は
「この2つのエピソード(及びこれと同似の諸例)はFOIAの実害論として人口に謄表し、かかるものとしてFOIA改正のキャンペーンに役立っている」
「芥川の『藪の中』を想い出させるような種類のものである」
「もしそうだとすれば、こういう種類の実害論をいくらあげても、それは有効に現行法の不備をつき、現行法の解釈上・立法上の修正を正当化することにならないように思えるのである」
・・・と首をかしげています。
また、人口水晶膜協会の話は、朝日新聞社の「開かれた政府を―情報公開世界の現状」(昭和56年3月)に、FOIAがアメリカ国民の健康への危険防止に役立っている実例として紹介されているものと同じものと思われます。
こちらの方の記事によると、この装着によって角膜を傷つけたり、緑内障をひき起こしたりなどの障害がたくさん報告されているのだといいます。
ダウ・ケミカルの場合、同社の科学技術にかねてから注目していたNIOSH(国立職業安全健康研究所)の研究員が、それを分析して報告書にまとめていました。
この報告書は正確性を確保するためにダウ・ケミカルに送られたのち、研究所のファイルに収められていました。
後日、ラルフ・ネーダーの組織のひとつである健康研究集団がFOIAに基づいて、この報告書の開示を求めてきました。
NIOSHは報告書の内容を検討した結果、「取引上の秘密」その他、法上秘密保護さるべき情報は含まれていないと判断したうえ、これを健康研究集団に開示しました。
そして、ただちにこの旨をダウ・ケミカルに通知しました。
ダウ・ケミカル側も「ありがとう。これでむしろ連中もわれわれの仕事がどんなものか、少しはわかったでしょう」と返事してきたそうです。
それから2ヶ月後に、日本企業(三菱化成工業だといいます)から同じ内容の請求があり、認められました。
日本側が均衡を打ち切ったのは、いろいろ調べた結果、疑問が生じて、見合わせたためといいます。
今回も、企業が被害を受けたとされる事例を紹介していきます。
▽エアー・クルーザー社の事例(1977年)
民間航空用の「緊急海上避難滑り台」の実用許可を連邦航空庁から承認されたエアー・クルーザー社は半年後に、この秘密資料が航空庁を通じてライバル会社のスイット・パラシュート社へ開示されようとしているのを知った。
あわてて連邦裁へ提訴して開示を差しとめることはできたが、一部の開示を認めさせられてしまった。
航空庁に提出されていた秘密資料は、構造デザイン、効果試験結果を含め、高さ50センチに及ぶ技術アータであって、最終開示させられた部分は「浮力計算」「床面図」を含んでおり、この部分を入手できたスイット・パラシュート社はそれを利用して自社の海上避難滑り台を作りあげた。
欧州向け契約を本尊のエアー・クルーザー社を蹴落として獲得できた。
スイット社は「わずか2ドルのテレックスでFOIAによる請求をしただけで、こんな収穫があり喜んでいる」といわれている。
▽ある製薬会社の事例(1978年)
某製薬会社が、新薬の販売許可をFDA(食品医薬局)から取得した際の許可理由概要関係書類をFDAが情報請求により開示した。
概要書のほか、製造工程と原料業老名と化学式が含まれるぺージも開示されてしまった。
これは競争会社にも極めて貴重な情報であり、某製薬会社はあわててFDAに対して、今後絶対開示せぬよう要求し、FDAもその旨同意した。
▽ワード・コープ・パッキング社の事例(1979年)
サケの缶詰会社数社を相手に地元の漁師組合が3年前にした訴訟に関して、召喚状を受けた缶詰会社のワード祉は秘密財務資料を公取委へ提出した。
ところが後日、公取委はFOIAによる請求で、この財務資料を漁師組合の弁護士に開示した。
アメリカは、弁護士が非常に多く企業のかわりにFOIAによる情報公開請求をするケースも目立って多いのですが、通常の訴訟事件の資料を入手するのにも、大いに、この制度を活用しています。
同経営者協会のレポートは、さらに
「米国では行政運営の監視という本来の趣旨をはずれ、乱用と、官庁の情報請求者偏重の弊害が累積されている。
その結果、官庁への信頼が弱まり、民間から官庁へ情報が入らなくなりつつある。
訴訟も多く、この16年間で1500件が裁判沙汰となったが、このうち300件が企業がらみである」
・・・として、企業が被害を受けたとされる事例を以下のように紹介しています。
▽ダウ・ケミカル社の事例(1972年)
イオン分離用のイオン交換樹脂プラスチック玉製法関連で、発ガン性BCME(ビスクロロメチルエチル)の検出、抑制技術を日本の某社に譲渡商談中に起こった。
N10SH(国立職業安全健康研究所)が・このダウの技術の検査のために工場に出かけており、その検査報告書が存在することに気づいた日本の某社の米国駐在員はFOIAを使って、その報告書を請求し、検出技術を入手した。
検出技術はもう要らぬ、抑制技術だけもらいたいということになって、この商談は流れた。
ダウ側の損失は数万ドルに及ぶという。
FOIAの改正論議が行われた1983年の上院の公述記録や、商務省の問題点指摘には、以下のような記述があります。
「任意の企業が提出した任意の情報に対してなされたFOIAに基づく請求について、それが受理された10日以内にFOIサービスは他の一般企業に対して年360ドルの予約金で、請求者とその請求の性質について通知している」
とか、
「公開請求者には、いわゆるFOIサービス産業が多く含まれており、それらは、入手した情報を通常の手数料の3~4倍で一般企業に提供している実態がある。
FOI関係費用の90%以上は税金でまかなわれているのであり、この制度により利益を上げているものには費用をもっと多くする方向での料金改正が必要である」
・・・などといった記述があり、FOIサービス産業の活躍ぶりがうかがえます。
1982年11月に、アメリカのFOIAの実施情況を調査した神奈川県経営者協会のレポートには「企業関係の法律事務所が活躍しているほか、FOIAで開示される官公庁情報の日報がよく売れている。
また年間650ドルで、依頼主の企業の情報の請求があったことを警告してくれる会社も繁盛している」
・・・とあります。